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ウサギの消化管うっ滞
「ウサギの消化管うっ滞:原因、症状、治療」
1.はじめに
肉や魚など様々な高栄養のものを食べる私たち人間と異なり、完全に植物を主食とするウサギは消化の効率を高めることで栄養の少ない植物から必要なエネルギーを得ています。その主な方法は腸内細菌の力を借りた盲腸での発酵であり、これが上手くできないと必要な炭水化物やビタミン類が得られず栄養不良に陥ります。
消化管うっ滞を引き起こす原因は多くありますが、ここではその症状や検査、治療法などを詳しく解説していきます。
2.消化管うっ滞の原因
消化管うっ滞は消化管の内容物を動かす働き(以下、蠕動運動)が低下、または停止した状態であり、様々な原因によって引き起こされます。特に繊維質の少ない食餌によるものも多いですが、中でも最も一般的な原因は以下の通りです。
不適切な食餌
ウサギの消化管は高繊維質の食餌により蠕動運動が促進されるため、ペレットの主食化や多給、野菜の過剰摂取により消化管の正常な運動が阻害されることで引き起こされます。ウサギのグルーミングにより取り込まれた被毛は正常であれば糞便とともに排泄されますが、蠕動運動が阻害された状態であると被毛が正常に排泄されずに消化管内で停滞します。この停滞した内容物は水分の吸収に伴い圧縮され、消化管うっ滞の増悪を起こします。また、繊維質の少なく炭水化物の多い食餌を多給することで消化管内の環境が変化して微生物の構成に変化が生じる上、炭水化物は微生物による毒素産生のエネルギーとなり細菌性の腸炎を発症します。
痛みや環境変化などによるストレス
ウサギの消化管は神経の複雑な支配を受けており、蠕動運動は副交感神経の支配を受けています。ストレスなどにより交感神経優位となった状態では、蠕動運動が低下して消化や排泄に影響を及ぼします。
また不正咬合やその痛みなどにより食餌を摂れないときは、消化管内容物が低下することで消化管の蠕動運動が低下してしまいます。
3.消化管うっ滞の症状
ウサギの消化管うっ滞は主に食欲不振や排便量の減少などが主な症状ですが、何らかの疾患に伴って発生することも多い疾患です。消化管うっ滞を疑ったうえで背景にある原因を精査することが重要です。ここでは主な症状を以下に示します。
食欲不振
鶏が先か、卵が先かのジレンマですが、うっ滞により消化管の蠕動運動が低下すると食欲不振が生じ、これにより消化管内の繊維質がさらに少なくなることで食欲の低下が助長されるという悪循環が生じます。
糞便の減少、変化
上の食欲不振と同様にして消化管の蠕動運動が低下することで、糞便の量が減少や糞塊の形のいびつ化、小型化、大小不同などが認められます。さらに消化管うっ滞に起因した細菌性腸炎を伴うときには下痢を認めることもあります。
活動性低下
消化管うっ滞による疼痛や不快感により生じます。いつもより遊ぶ時間が減少することや、腹ばいになってじっとしている等があれば注意が必要です。疼痛や不快感による歯ぎしりが認められることもあります。
腹部膨満
消化管うっ滞が生じると、主に胃における内容物の停滞と以降の消化管でのガスの貯留が認められることで腹部が膨満します。触診上でも腹部の膨満と張り、さらには疼痛を認めることもあります。腹部膨満による圧迫や疼痛による呼吸促拍が認められることもあります。
4.消化管うっ滞の検査
消化管うっ滞の最も一般的な原因は不適切な食餌であるため、普段の食餌内容の問診を行います。ここでは、チモシーやペレット以外に野菜や市販のおやつなどを常食しているかどうか等を聴取します。
まず視診上で姿勢や行動を確認して明らかな疼痛を呈していないかどうかや、呼吸状態の確認を行います。視診で状態を把握後、腹部の触診を実施し、胃の硬さや緊張、触診時の疼痛の有無を確認します。
触診後、X線検査により消化管の評価を行います。消化管うっ滞では主に胃に消化管内容物が停滞し、以降の消化管においてはガスの貯留が認められることがあります(写真1, 2)。重症例では胃の内容物が圧縮された特徴的な像が認められます。
消化管うっ滞は疼痛や不快感などによっても引き起こされるため、様々な疾患が原因となります。特に不正咬合は消化管うっ滞と同様に最も一般的な疾患の一つであり、併発していることも少なくありません。そのため、上記の消化管うっ滞の検査の他に口腔内検査などの他の疾患の精査も必要となり、上記の様々な検査をもとに確定診断を行います。
5.消化管うっ滞の治療方法
問診時の食餌内容に問題があれば、まずはその内容の見直しを行います。具体的には牧草とペレットを中心とした食餌が理想であり、他の野菜やおやつは控えます。さらに牧草もチモシーやアルファルファ、イタリアンライグラスなどがありますが、主食としての牧草は高繊維、低タンパクのものが必要であるため、その特徴を最も満たすチモシーの一番刈りを与えます。他の牧草もその嗜好性や栄養面から、成長期や食欲不振時などで使い分けることが重要です。
治療の方針としてはうっ滞の緩和と、疼痛があればその管理を行います。脱水の評価を行い、水和による循環の改善を目的とした輸液を行うほか、消化管運動促進薬を投与します。さらに食欲の廃絶が生じている場合には、消化管の蠕動運動促進と栄養の補給を目的とした強制給餌を行うこともあります。強制給餌は必要カロリーを摂取させることで、栄養不良により生じる肝不全;肝リピドーシスの予防にもつながります。
ただし、胃に停滞した内容物が圧縮されて固くなり、閉塞に至った場合や内科療法で反応がない場合には外科的に内容物を取り除くこともあります。
また消化管うっ滞を副次的に起こしうるような疾患が明らかになったときには、その疾患にアプローチしていきます。
6.消化管うっ滞の予防
予防としては食餌の管理が最も重要であり、牧草を食べずにペレットが主食となっている場合や野菜、おやつを常食している個体は消化管の蠕動運動が低下しやすく消化管うっ滞のリスクが高まります。さらにこれらの食餌内容は、消化管うっ滞の原因となりうる不正咬合の原因にもなります。
野菜や市販のおやつ類を喜んで食べる姿は見ていて嬉しいものですが、長期的なウサギの健康のためにもチモシーを主食として与えていくことが重要です。また、チモシーは多年草であり、収穫のシーズンによって一番刈り、二番刈り、三番刈りに分けられ、その年の初めに収穫されたチモシーである一番刈りは、粗蛋白や粗脂肪が少なく高繊維であるためウサギの主食として最も適しています。ただし硬く栄養は少ない特徴から嗜好性は劣るため、食欲低下している場合やもとよりチモシーをあまり食べない場合は、一番刈りよりも繊維質は少ないが高栄養で嗜好性の高い三番刈りから与えていきます。
他にもマメ科のアルファルファも嗜好性が高いですが、繊維質が少なくタンパク質やカルシウムの多い特徴を有しているため、成長期以降も与え続けると消化管うっ滞の他にも不正咬合や肥満、尿路結石の原因となります。そのため主食として与えるのは成長期(生後6か月程度)までに留めて、年齢に伴ってチモシーの割合を増やしていくことが重要です。
7.まとめ
様々な原因から起こるウサギの消化管うっ滞は、重症化すると死に至る疾患です。ただしもっとも一般的な原因は不適切な食餌内容であることから、食餌内容を適正化することで十分予防することができる疾患です。早期の発見による軽症例では内科的な反応が奏功することも多いですが、軽症時には明らかな症状を表すことが少ない動物です。「いつも食べている量を食べない」や「少し元気がない気がする」、「ウンチの形がいつもと違う」等の変化があれば早めに動物病院を受診しましょう。また消化管のうっ滞の原因となりうる不正咬合の評価等の定期的な健康診断を受けることも重要です。
1.はじめに
肉や魚など様々な高栄養のものを食べる私たち人間と異なり、完全に植物を主食とするウサギは消化の効率を高めることで栄養の少ない植物から必要なエネルギーを得ています。その主な方法は腸内細菌の力を借りた盲腸での発酵であり、これが上手くできないと必要な炭水化物やビタミン類が得られず栄養不良に陥ります。
消化管うっ滞を引き起こす原因は多くありますが、ここではその症状や検査、治療法などを詳しく解説していきます。
2.消化管うっ滞の原因
消化管うっ滞は消化管の内容物を動かす働き(以下、蠕動運動)が低下、または停止した状態であり、様々な原因によって引き起こされます。特に繊維質の少ない食餌によるものも多いですが、中でも最も一般的な原因は以下の通りです。
不適切な食餌
ウサギの消化管は高繊維質の食餌により蠕動運動が促進されるため、ペレットの主食化や多給、野菜の過剰摂取により消化管の正常な運動が阻害されることで引き起こされます。ウサギのグルーミングにより取り込まれた被毛は正常であれば糞便とともに排泄されますが、蠕動運動が阻害された状態であると被毛が正常に排泄されずに消化管内で停滞します。この停滞した内容物は水分の吸収に伴い圧縮され、消化管うっ滞の増悪を起こします。また、繊維質の少なく炭水化物の多い食餌を多給することで消化管内の環境が変化して微生物の構成に変化が生じる上、炭水化物は微生物による毒素産生のエネルギーとなり細菌性の腸炎を発症します。
痛みや環境変化などによるストレス
ウサギの消化管は神経の複雑な支配を受けており、蠕動運動は副交感神経の支配を受けています。ストレスなどにより交感神経優位となった状態では、蠕動運動が低下して消化や排泄に影響を及ぼします。
また不正咬合やその痛みなどにより食餌を摂れないときは、消化管内容物が低下することで消化管の蠕動運動が低下してしまいます。
3.消化管うっ滞の症状
ウサギの消化管うっ滞は主に食欲不振や排便量の減少などが主な症状ですが、何らかの疾患に伴って発生することも多い疾患です。消化管うっ滞を疑ったうえで背景にある原因を精査することが重要です。ここでは主な症状を以下に示します。
食欲不振
鶏が先か、卵が先かのジレンマですが、うっ滞により消化管の蠕動運動が低下すると食欲不振が生じ、これにより消化管内の繊維質がさらに少なくなることで食欲の低下が助長されるという悪循環が生じます。
糞便の減少、変化
上の食欲不振と同様にして消化管の蠕動運動が低下することで、糞便の量が減少や糞塊の形のいびつ化、小型化、大小不同などが認められます。さらに消化管うっ滞に起因した細菌性腸炎を伴うときには下痢を認めることもあります。
活動性低下
消化管うっ滞による疼痛や不快感により生じます。いつもより遊ぶ時間が減少することや、腹ばいになってじっとしている等があれば注意が必要です。疼痛や不快感による歯ぎしりが認められることもあります。
腹部膨満
消化管うっ滞が生じると、主に胃における内容物の停滞と以降の消化管でのガスの貯留が認められることで腹部が膨満します。触診上でも腹部の膨満と張り、さらには疼痛を認めることもあります。腹部膨満による圧迫や疼痛による呼吸促拍が認められることもあります。
4.消化管うっ滞の検査
消化管うっ滞の最も一般的な原因は不適切な食餌であるため、普段の食餌内容の問診を行います。ここでは、チモシーやペレット以外に野菜や市販のおやつなどを常食しているかどうか等を聴取します。
まず視診上で姿勢や行動を確認して明らかな疼痛を呈していないかどうかや、呼吸状態の確認を行います。視診で状態を把握後、腹部の触診を実施し、胃の硬さや緊張、触診時の疼痛の有無を確認します。
触診後、X線検査により消化管の評価を行います。消化管うっ滞では主に胃に消化管内容物が停滞し、以降の消化管においてはガスの貯留が認められることがあります(写真1, 2)。重症例では胃の内容物が圧縮された特徴的な像が認められます。
消化管うっ滞は疼痛や不快感などによっても引き起こされるため、様々な疾患が原因となります。特に不正咬合は消化管うっ滞と同様に最も一般的な疾患の一つであり、併発していることも少なくありません。そのため、上記の消化管うっ滞の検査の他に口腔内検査などの他の疾患の精査も必要となり、上記の様々な検査をもとに確定診断を行います。
5.消化管うっ滞の治療方法
問診時の食餌内容に問題があれば、まずはその内容の見直しを行います。具体的には牧草とペレットを中心とした食餌が理想であり、他の野菜やおやつは控えます。さらに牧草もチモシーやアルファルファ、イタリアンライグラスなどがありますが、主食としての牧草は高繊維、低タンパクのものが必要であるため、その特徴を最も満たすチモシーの一番刈りを与えます。他の牧草もその嗜好性や栄養面から、成長期や食欲不振時などで使い分けることが重要です。
治療の方針としてはうっ滞の緩和と、疼痛があればその管理を行います。脱水の評価を行い、水和による循環の改善を目的とした輸液を行うほか、消化管運動促進薬を投与します。さらに食欲の廃絶が生じている場合には、消化管の蠕動運動促進と栄養の補給を目的とした強制給餌を行うこともあります。強制給餌は必要カロリーを摂取させることで、栄養不良により生じる肝不全;肝リピドーシスの予防にもつながります。
ただし、胃に停滞した内容物が圧縮されて固くなり、閉塞に至った場合や内科療法で反応がない場合には外科的に内容物を取り除くこともあります。
また消化管うっ滞を副次的に起こしうるような疾患が明らかになったときには、その疾患にアプローチしていきます。
6.消化管うっ滞の予防
予防としては食餌の管理が最も重要であり、牧草を食べずにペレットが主食となっている場合や野菜、おやつを常食している個体は消化管の蠕動運動が低下しやすく消化管うっ滞のリスクが高まります。さらにこれらの食餌内容は、消化管うっ滞の原因となりうる不正咬合の原因にもなります。
野菜や市販のおやつ類を喜んで食べる姿は見ていて嬉しいものですが、長期的なウサギの健康のためにもチモシーを主食として与えていくことが重要です。また、チモシーは多年草であり、収穫のシーズンによって一番刈り、二番刈り、三番刈りに分けられ、その年の初めに収穫されたチモシーである一番刈りは、粗蛋白や粗脂肪が少なく高繊維であるためウサギの主食として最も適しています。ただし硬く栄養は少ない特徴から嗜好性は劣るため、食欲低下している場合やもとよりチモシーをあまり食べない場合は、一番刈りよりも繊維質は少ないが高栄養で嗜好性の高い三番刈りから与えていきます。
他にもマメ科のアルファルファも嗜好性が高いですが、繊維質が少なくタンパク質やカルシウムの多い特徴を有しているため、成長期以降も与え続けると消化管うっ滞の他にも不正咬合や肥満、尿路結石の原因となります。そのため主食として与えるのは成長期(生後6か月程度)までに留めて、年齢に伴ってチモシーの割合を増やしていくことが重要です。
7.まとめ
様々な原因から起こるウサギの消化管うっ滞は、重症化すると死に至る疾患です。ただしもっとも一般的な原因は不適切な食餌内容であることから、食餌内容を適正化することで十分予防することができる疾患です。早期の発見による軽症例では内科的な反応が奏功することも多いですが、軽症時には明らかな症状を表すことが少ない動物です。「いつも食べている量を食べない」や「少し元気がない気がする」、「ウンチの形がいつもと違う」等の変化があれば早めに動物病院を受診しましょう。また消化管のうっ滞の原因となりうる不正咬合の評価等の定期的な健康診断を受けることも重要です。
ウサギの不正咬合
「ウサギの不正咬合:原因、症状、治療」
1.はじめに
ウサギの歯科疾患はもっとも一般的な疾患の一つです。なかでも不正咬合はウサギの歯が何らかの原因で正常な位置にならず、噛み合わせが悪くなる状態を指します。一度不正咬合を引き起こすと生涯にわたる処置が必要となり、その悪化は様々な疾患の原因となります。
この記事では、ウサギの不正咬合について、その原因、症状、治療法、そしてその予防方法について詳しく説明します。
2.不正咬合の原因
不正咬合はさまざまな原因によって引き起こされることがあり、先天的なものと後天的なものに大きく分けられます。その中でも、最も一般的な原因は以下の通りです。
遺伝的要因
ウサギの不正咬合は、遺伝的な骨の異常などの要因によって引き起こされることがあります。さらに体が小さいほど咬む力が弱く、不正咬合を引き起こしやすいとも言われています。
栄養不良
適切な栄養を摂取しない場合、ウサギの歯の成長や発達に問題が生じる可能性があります。特にカルシウムやビタミンの不足により、歯の安定性が低下することでも生じる可能性があります。
歯の磨耗
歯の磨耗が不十分な場合、歯の成長や発達に問題が生じることがあります。ヒトやイヌなどと異なり、ウサギは特に歯が常に成長し続ける常生歯であるため、適切な歯冠の摩耗が必要です。野菜やペレットを多く与えている場合は注意が必要です。
外傷
ウサギが外傷を受けた場合、歯の成長や発達に影響を与える可能性があります。固い金属などを日常的に齧ることや何らかの外傷によって歯が折れることで、正常の位置から歯がずれて過長します。外傷を原因とした不正咬合は特に切歯で多く認められます。
3.不正咬合の症状
ウサギの不正咬合にはさまざまな症状が現れる場合がありますが、特徴的なものは少なく、症状や検査により鑑別する必要があります。以下は、主な症状の一部です。
食欲不振
不正咬合が進行すると咀嚼や嚥下が困難となる上、痛みを伴うことで食欲が低下し、それに伴い体重の減少が認められることがあります。
流涎や鼻汁
不正咬合の発生箇所としては歯冠(歯の咬合面)と歯根(歯槽骨との接着面)に分けられ、その箇所によっても症状が異なります。歯冠で発生した場合は、過長した臼歯により口が閉まりにくくなること(閉口障害)で流涎が増え、さらには閉口障害による二次的な下顎の脱臼や、切歯の咬耗が減少することによる切歯過長の原因となります。
歯根が過長した場合は下顎骨の隆起や、上顎の過長では鼻腔や眼窩に達すると鼻汁や眼脂、流涙を引き起こします。流涎を起こした個体はグルーミングにより前肢の汚れや脱毛が認められることがある。
口の周りの腫れ
過長した臼歯が形成する棘状縁(歯の縁の尖った部分)が舌や頬粘膜を傷つけることで口内炎を引き起こすほか、動揺した歯を原因とした歯周病が起こることがあります。さらに歯肉の異常増殖により、下顎の歯冠が歯肉に覆われる状態となることがあります(歯肉増殖症、歯肉過形成)。また不正咬合による動揺歯やそれに起因した歯周病などが原因で歯根や周囲の歯槽骨に膿瘍が発生することで、顔の腫れや排膿が認められます。
消化器系の問題
不正咬合が進行すると、痛みや不快感、食餌中の繊維質の不足によって消化管の胃腸蠕動が低下することで消化管の鬱滞を引き起こすことがあり、さらに食欲不振を引き起こすこともあります。これにより糞の減少や大小不同、形態異常が認められます。
4.不正咬合の検査
問診や症状のほかに、口腔内検査やX線検査を実施します(写真1)。
臼歯や外から観察のできない歯根についてはX線検査による評価も行います。なお無麻酔下での検査には限界があり、臼歯の観察や多角的なX線検査には麻酔処置が必要となります。さらにウサギは骨が薄く、無麻酔下での処置は骨折等のリスクを伴うため、麻酔下での検査のメリットは大きいです。
5.不正咬合の治療法
ウサギの不正咬合に対する処置は症状の重症度や原因によって異なりますが、歯冠の過長の場合は主に外科的な介入となります。ただし歯冠の過長と歯根の過長を併発していることも少なくありません。なお、ウサギが処置中に暴れたりすることによる骨折などのリスクを低減させるために、基本的に口腔内の精査や歯冠の過長の処置は麻酔下で実施します。
歯冠の過長
歯冠の過長により不正咬合が生じている場合は、その原因となっている歯を特定し、できる限り元の形に整形する必要があります。臼歯や歯の状態によっては、個体の安全のためにも鎮静処置を行って不動化し、処置を行うこともあります。
一度不正咬合を引き起こした歯は元の状態に戻ることはなく、歯の成長速度に合わせた定期的な処置が必要となります。膿瘍を伴う場合などで動揺歯となっている場合は抜歯を行う場合もありますが、骨折のリスクや術後のケアの観点からも抜歯処置を行うことは少ないです。
歯肉の過形成を生じている場合では、歯肉の焼烙を行って歯の研磨を実施します。
歯根の過長
歯根の過長を起こしている場合は外科的な介入は難しく、対症的な処置が中心となります。食餌や飼育環境に問題がある場合はその見直しをするとともに、一般状態によっては強制給餌や点滴、鎮痛剤の使用を検討します。特に重度の不正咬合を起こしている場合は自ら食餌をとることができないことも多いため、胃腸の蠕動運動促進のために強制給餌は重要な処置となります。
歯根の過長により根尖周囲膿瘍(写真2)を引き起こしている場合には排膿処置を行ったうえで、適切な抗生剤や鎮痛剤を投与します。
6.予防
予防には食餌の管理が大きい役割を持ちます。特に牧草を食べずにペレットや野菜がメインとなっている個体では臼歯の咬耗が減少するほか、左右方向の臼歯の咀嚼が減少することで臼歯の形態の変化を引き起こします。食いつきの良いペレットやおやつを多く与えたくなりますが、ウサギの歯の健康のためにもチモシーを主食として与えていくことが重要です。
チモシーは多年草であり、収穫のシーズンによって一番刈り、二番刈り、三番刈りに分けられます。一番刈りはその年の初めに収穫されたチモシーであり、粗蛋白や粗脂肪が少なく、高繊維であるためウサギの食餌として最も適しています。ただし硬く栄養は少ないため嗜好性は劣ります。一方で三番刈りは栄養価が高く嗜好性が高い特徴を有しますが、繊維質が少ないため胃腸の蠕動運動が低下する可能性があります。ただし食欲低下している場合やもとよりチモシーをあまり食べない場合は、嗜好性の高い三番刈りから与えていきます。
マメ科のアルファルファも嗜好性が高いですが、繊維質が少なくタンパク質やカルシウムの多い特徴を有しているため、大人になってからも与え続けると不正咬合の他にも肥満や尿路結石、鼓張症の原因となります。そのため主食として与えるのは成長期(生後6か月程度)までに留め、以降は徐々にチモシーの割合を増やしていきましょう。
7.まとめ
不正咬合はウサギの生活に大きな影響を及ぼし、一度なってしまうと生涯に渡っての処置が必要となってしまいます。さらに不正咬合から続発する歯周病の他、食餌を摂れないことによって様々な病気の原因となります。
ただしウサギの不正咬合は普段からの食餌や環境の整備により、十分防ぐことのできる病気です。お家での飼育環境を見直しながら、動物病院での定期的な健康診断を実施することが重要です。
当院でも不正咬合に関して、できる限りの検査、処置を行っております。食欲不振の症状はもちろんのこと、定期的な検査に関しても気軽にご相談ください。
1.はじめに
ウサギの歯科疾患はもっとも一般的な疾患の一つです。なかでも不正咬合はウサギの歯が何らかの原因で正常な位置にならず、噛み合わせが悪くなる状態を指します。一度不正咬合を引き起こすと生涯にわたる処置が必要となり、その悪化は様々な疾患の原因となります。
この記事では、ウサギの不正咬合について、その原因、症状、治療法、そしてその予防方法について詳しく説明します。
2.不正咬合の原因
不正咬合はさまざまな原因によって引き起こされることがあり、先天的なものと後天的なものに大きく分けられます。その中でも、最も一般的な原因は以下の通りです。
遺伝的要因
ウサギの不正咬合は、遺伝的な骨の異常などの要因によって引き起こされることがあります。さらに体が小さいほど咬む力が弱く、不正咬合を引き起こしやすいとも言われています。
栄養不良
適切な栄養を摂取しない場合、ウサギの歯の成長や発達に問題が生じる可能性があります。特にカルシウムやビタミンの不足により、歯の安定性が低下することでも生じる可能性があります。
歯の磨耗
歯の磨耗が不十分な場合、歯の成長や発達に問題が生じることがあります。ヒトやイヌなどと異なり、ウサギは特に歯が常に成長し続ける常生歯であるため、適切な歯冠の摩耗が必要です。野菜やペレットを多く与えている場合は注意が必要です。
外傷
ウサギが外傷を受けた場合、歯の成長や発達に影響を与える可能性があります。固い金属などを日常的に齧ることや何らかの外傷によって歯が折れることで、正常の位置から歯がずれて過長します。外傷を原因とした不正咬合は特に切歯で多く認められます。
3.不正咬合の症状
ウサギの不正咬合にはさまざまな症状が現れる場合がありますが、特徴的なものは少なく、症状や検査により鑑別する必要があります。以下は、主な症状の一部です。
食欲不振
不正咬合が進行すると咀嚼や嚥下が困難となる上、痛みを伴うことで食欲が低下し、それに伴い体重の減少が認められることがあります。
流涎や鼻汁
不正咬合の発生箇所としては歯冠(歯の咬合面)と歯根(歯槽骨との接着面)に分けられ、その箇所によっても症状が異なります。歯冠で発生した場合は、過長した臼歯により口が閉まりにくくなること(閉口障害)で流涎が増え、さらには閉口障害による二次的な下顎の脱臼や、切歯の咬耗が減少することによる切歯過長の原因となります。
歯根が過長した場合は下顎骨の隆起や、上顎の過長では鼻腔や眼窩に達すると鼻汁や眼脂、流涙を引き起こします。流涎を起こした個体はグルーミングにより前肢の汚れや脱毛が認められることがある。
口の周りの腫れ
過長した臼歯が形成する棘状縁(歯の縁の尖った部分)が舌や頬粘膜を傷つけることで口内炎を引き起こすほか、動揺した歯を原因とした歯周病が起こることがあります。さらに歯肉の異常増殖により、下顎の歯冠が歯肉に覆われる状態となることがあります(歯肉増殖症、歯肉過形成)。また不正咬合による動揺歯やそれに起因した歯周病などが原因で歯根や周囲の歯槽骨に膿瘍が発生することで、顔の腫れや排膿が認められます。
消化器系の問題
不正咬合が進行すると、痛みや不快感、食餌中の繊維質の不足によって消化管の胃腸蠕動が低下することで消化管の鬱滞を引き起こすことがあり、さらに食欲不振を引き起こすこともあります。これにより糞の減少や大小不同、形態異常が認められます。
4.不正咬合の検査
問診や症状のほかに、口腔内検査やX線検査を実施します(写真1)。
臼歯や外から観察のできない歯根についてはX線検査による評価も行います。なお無麻酔下での検査には限界があり、臼歯の観察や多角的なX線検査には麻酔処置が必要となります。さらにウサギは骨が薄く、無麻酔下での処置は骨折等のリスクを伴うため、麻酔下での検査のメリットは大きいです。
5.不正咬合の治療法
ウサギの不正咬合に対する処置は症状の重症度や原因によって異なりますが、歯冠の過長の場合は主に外科的な介入となります。ただし歯冠の過長と歯根の過長を併発していることも少なくありません。なお、ウサギが処置中に暴れたりすることによる骨折などのリスクを低減させるために、基本的に口腔内の精査や歯冠の過長の処置は麻酔下で実施します。
歯冠の過長
歯冠の過長により不正咬合が生じている場合は、その原因となっている歯を特定し、できる限り元の形に整形する必要があります。臼歯や歯の状態によっては、個体の安全のためにも鎮静処置を行って不動化し、処置を行うこともあります。
一度不正咬合を引き起こした歯は元の状態に戻ることはなく、歯の成長速度に合わせた定期的な処置が必要となります。膿瘍を伴う場合などで動揺歯となっている場合は抜歯を行う場合もありますが、骨折のリスクや術後のケアの観点からも抜歯処置を行うことは少ないです。
歯肉の過形成を生じている場合では、歯肉の焼烙を行って歯の研磨を実施します。
歯根の過長
歯根の過長を起こしている場合は外科的な介入は難しく、対症的な処置が中心となります。食餌や飼育環境に問題がある場合はその見直しをするとともに、一般状態によっては強制給餌や点滴、鎮痛剤の使用を検討します。特に重度の不正咬合を起こしている場合は自ら食餌をとることができないことも多いため、胃腸の蠕動運動促進のために強制給餌は重要な処置となります。
歯根の過長により根尖周囲膿瘍(写真2)を引き起こしている場合には排膿処置を行ったうえで、適切な抗生剤や鎮痛剤を投与します。
6.予防
予防には食餌の管理が大きい役割を持ちます。特に牧草を食べずにペレットや野菜がメインとなっている個体では臼歯の咬耗が減少するほか、左右方向の臼歯の咀嚼が減少することで臼歯の形態の変化を引き起こします。食いつきの良いペレットやおやつを多く与えたくなりますが、ウサギの歯の健康のためにもチモシーを主食として与えていくことが重要です。
チモシーは多年草であり、収穫のシーズンによって一番刈り、二番刈り、三番刈りに分けられます。一番刈りはその年の初めに収穫されたチモシーであり、粗蛋白や粗脂肪が少なく、高繊維であるためウサギの食餌として最も適しています。ただし硬く栄養は少ないため嗜好性は劣ります。一方で三番刈りは栄養価が高く嗜好性が高い特徴を有しますが、繊維質が少ないため胃腸の蠕動運動が低下する可能性があります。ただし食欲低下している場合やもとよりチモシーをあまり食べない場合は、嗜好性の高い三番刈りから与えていきます。
マメ科のアルファルファも嗜好性が高いですが、繊維質が少なくタンパク質やカルシウムの多い特徴を有しているため、大人になってからも与え続けると不正咬合の他にも肥満や尿路結石、鼓張症の原因となります。そのため主食として与えるのは成長期(生後6か月程度)までに留め、以降は徐々にチモシーの割合を増やしていきましょう。
7.まとめ
不正咬合はウサギの生活に大きな影響を及ぼし、一度なってしまうと生涯に渡っての処置が必要となってしまいます。さらに不正咬合から続発する歯周病の他、食餌を摂れないことによって様々な病気の原因となります。
ただしウサギの不正咬合は普段からの食餌や環境の整備により、十分防ぐことのできる病気です。お家での飼育環境を見直しながら、動物病院での定期的な健康診断を実施することが重要です。
当院でも不正咬合に関して、できる限りの検査、処置を行っております。食欲不振の症状はもちろんのこと、定期的な検査に関しても気軽にご相談ください。
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