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ウサギの消化管うっ滞

「ウサギの消化管うっ滞:原因、症状、治療」
 
1.はじめに
 
 肉や魚など様々な高栄養のものを食べる私たち人間と異なり、完全に植物を主食とするウサギは消化の効率を高めることで栄養の少ない植物から必要なエネルギーを得ています。その主な方法は腸内細菌の力を借りた盲腸での発酵であり、これが上手くできないと必要な炭水化物やビタミン類が得られず栄養不良に陥ります。
 消化管うっ滞を引き起こす原因は多くありますが、ここではその症状や検査、治療法などを詳しく解説していきます。
 
2.消化管うっ滞の原因
 
 消化管うっ滞は消化管の内容物を動かす働き(以下、蠕動運動)が低下、または停止した状態であり、様々な原因によって引き起こされます。特に繊維質の少ない食餌によるものも多いですが、中でも最も一般的な原因は以下の通りです。
 
 不適切な食餌
 
 ウサギの消化管は高繊維質の食餌により蠕動運動が促進されるため、ペレットの主食化や多給、野菜の過剰摂取により消化管の正常な運動が阻害されることで引き起こされます。ウサギのグルーミングにより取り込まれた被毛は正常であれば糞便とともに排泄されますが、蠕動運動が阻害された状態であると被毛が正常に排泄されずに消化管内で停滞します。この停滞した内容物は水分の吸収に伴い圧縮され、消化管うっ滞の増悪を起こします。また、繊維質の少なく炭水化物の多い食餌を多給することで消化管内の環境が変化して微生物の構成に変化が生じる上、炭水化物は微生物による毒素産生のエネルギーとなり細菌性の腸炎を発症します。
 
 痛みや環境変化などによるストレス
 
 ウサギの消化管は神経の複雑な支配を受けており、蠕動運動は副交感神経の支配を受けています。ストレスなどにより交感神経優位となった状態では、蠕動運動が低下して消化や排泄に影響を及ぼします。
 また不正咬合やその痛みなどにより食餌を摂れないときは、消化管内容物が低下することで消化管の蠕動運動が低下してしまいます。
 
3.消化管うっ滞の症状
 
 ウサギの消化管うっ滞は主に食欲不振や排便量の減少などが主な症状ですが、何らかの疾患に伴って発生することも多い疾患です。消化管うっ滞を疑ったうえで背景にある原因を精査することが重要です。ここでは主な症状を以下に示します。
 
 食欲不振
 
 鶏が先か、卵が先かのジレンマですが、うっ滞により消化管の蠕動運動が低下すると食欲不振が生じ、これにより消化管内の繊維質がさらに少なくなることで食欲の低下が助長されるという悪循環が生じます。
 
 糞便の減少、変化
 
 上の食欲不振と同様にして消化管の蠕動運動が低下することで、糞便の量が減少や糞塊の形のいびつ化、小型化、大小不同などが認められます。さらに消化管うっ滞に起因した細菌性腸炎を伴うときには下痢を認めることもあります。
 
 活動性低下
 
 消化管うっ滞による疼痛や不快感により生じます。いつもより遊ぶ時間が減少することや、腹ばいになってじっとしている等があれば注意が必要です。疼痛や不快感による歯ぎしりが認められることもあります。
 
 腹部膨満
 
 消化管うっ滞が生じると、主に胃における内容物の停滞と以降の消化管でのガスの貯留が認められることで腹部が膨満します。触診上でも腹部の膨満と張り、さらには疼痛を認めることもあります。腹部膨満による圧迫や疼痛による呼吸促拍が認められることもあります。
 
4.消化管うっ滞の検査
 
 消化管うっ滞の最も一般的な原因は不適切な食餌であるため、普段の食餌内容の問診を行います。ここでは、チモシーやペレット以外に野菜や市販のおやつなどを常食しているかどうか等を聴取します。
 まず視診上で姿勢や行動を確認して明らかな疼痛を呈していないかどうかや、呼吸状態の確認を行います。視診で状態を把握後、腹部の触診を実施し、胃の硬さや緊張、触診時の疼痛の有無を確認します。
 触診後、X線検査により消化管の評価を行います。消化管うっ滞では主に胃に消化管内容物が停滞し、以降の消化管においてはガスの貯留が認められることがあります(写真1, 2)。重症例では胃の内容物が圧縮された特徴的な像が認められます。
 消化管うっ滞は疼痛や不快感などによっても引き起こされるため、様々な疾患が原因となります。特に不正咬合は消化管うっ滞と同様に最も一般的な疾患の一つであり、併発していることも少なくありません。そのため、上記の消化管うっ滞の検査の他に口腔内検査などの他の疾患の精査も必要となり、上記の様々な検査をもとに確定診断を行います。
 

 
5.消化管うっ滞の治療方法
 
 問診時の食餌内容に問題があれば、まずはその内容の見直しを行います。具体的には牧草とペレットを中心とした食餌が理想であり、他の野菜やおやつは控えます。さらに牧草もチモシーやアルファルファ、イタリアンライグラスなどがありますが、主食としての牧草は高繊維、低タンパクのものが必要であるため、その特徴を最も満たすチモシーの一番刈りを与えます。他の牧草もその嗜好性や栄養面から、成長期や食欲不振時などで使い分けることが重要です。
 治療の方針としてはうっ滞の緩和と、疼痛があればその管理を行います。脱水の評価を行い、水和による循環の改善を目的とした輸液を行うほか、消化管運動促進薬を投与します。さらに食欲の廃絶が生じている場合には、消化管の蠕動運動促進と栄養の補給を目的とした強制給餌を行うこともあります。強制給餌は必要カロリーを摂取させることで、栄養不良により生じる肝不全;肝リピドーシスの予防にもつながります。
 ただし、胃に停滞した内容物が圧縮されて固くなり、閉塞に至った場合や内科療法で反応がない場合には外科的に内容物を取り除くこともあります。
また消化管うっ滞を副次的に起こしうるような疾患が明らかになったときには、その疾患にアプローチしていきます。
 
6.消化管うっ滞の予防
 
 予防としては食餌の管理が最も重要であり、牧草を食べずにペレットが主食となっている場合や野菜、おやつを常食している個体は消化管の蠕動運動が低下しやすく消化管うっ滞のリスクが高まります。さらにこれらの食餌内容は、消化管うっ滞の原因となりうる不正咬合の原因にもなります。
 野菜や市販のおやつ類を喜んで食べる姿は見ていて嬉しいものですが、長期的なウサギの健康のためにもチモシーを主食として与えていくことが重要です。また、チモシーは多年草であり、収穫のシーズンによって一番刈り、二番刈り、三番刈りに分けられ、その年の初めに収穫されたチモシーである一番刈りは、粗蛋白や粗脂肪が少なく高繊維であるためウサギの主食として最も適しています。ただし硬く栄養は少ない特徴から嗜好性は劣るため、食欲低下している場合やもとよりチモシーをあまり食べない場合は、一番刈りよりも繊維質は少ないが高栄養で嗜好性の高い三番刈りから与えていきます。
 他にもマメ科のアルファルファも嗜好性が高いですが、繊維質が少なくタンパク質やカルシウムの多い特徴を有しているため、成長期以降も与え続けると消化管うっ滞の他にも不正咬合や肥満、尿路結石の原因となります。そのため主食として与えるのは成長期(生後6か月程度)までに留めて、年齢に伴ってチモシーの割合を増やしていくことが重要です。
 
7.まとめ
 
 様々な原因から起こるウサギの消化管うっ滞は、重症化すると死に至る疾患です。ただしもっとも一般的な原因は不適切な食餌内容であることから、食餌内容を適正化することで十分予防することができる疾患です。早期の発見による軽症例では内科的な反応が奏功することも多いですが、軽症時には明らかな症状を表すことが少ない動物です。「いつも食べている量を食べない」や「少し元気がない気がする」、「ウンチの形がいつもと違う」等の変化があれば早めに動物病院を受診しましょう。また消化管のうっ滞の原因となりうる不正咬合の評価等の定期的な健康診断を受けることも重要です。


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